成人してから「適応障害」と診断を受ける方が増えているようです。
「適応障害」が理由で、職場や仕事の仕方に馴染めず、仕事を続けることができない理由ともなっています。
「あいつは適応障害だから退職してくれた方が良い」と単純に判断することは簡単です。
ですが、考え方によっては、「(当のご本人が、在籍のままなのか、場合によっては退職してしまった場合でも)適応障害を抱えている従業員がいることで、業務改善を進める切っ掛けになり、生産性を上げることができた」となる場合もあることは忘れてはいけない事実です。
そのことを踏まえて、「適応障害」の従業員を雇用した会社側に対して、業務改善を見据えて対応をされることをお勧めてしたいと思います。
目次
「適応障害」とはどんな「精神障害」なのか?
まずは「適応障害」について、下記の引用をもって説明したいと思います。
概要
適応障害とは、生活の中で生じる日常的なストレスにうまく対処することができない結果、抑うつや不安感などの精神症状や行動面に変化が現れて社会生活に支障をきたす病気のことです。
ICD-10(世界保健機関の診断ガイドライン)では、原因となるストレスが生じてから1か月以内(米国精神医学会のDSM5では3か月以内)に発症し、ストレスが解消してから6か月以内に症状が改善するとされていますが、ストレスが長く続く場合には長期間続くこともあります。
適応障害の症状はうつ病や不安障害などと類似していますが、その症状がそういった既存の精神疾患の診断基準に明確に当てはまる場合は、そちらの診断が優先されます。たとえば、明瞭な環境変化があり、その状況に“適応”できずにうつ状態になった場合でも、症状や持続期間などがうつ病エピソードの診断基準を満たすのであれば、診断は適応障害ではなく、うつ病になります。
また、適応障害とほかの精神疾患をある時点では明確に区別できない場合もあり、発症当初は適応障害と診断されても、経過を追ううちにうつ病や統合失調症、不安障害など診断名が変わることもあります。
原因
適応障害は、ストレスなどの外因的な要素と、ストレスに対する対処力や本来の性格などの内因的な要素が組み合わさることで発症します。それぞれの要素には以下のようなものが挙げられます。
外因的な要素
家庭や学校、職場での環境の変化や人間関係の悪化が原因となることが多いですが、親しい人との離別、本人の健康問題などが誘因となることもあります。他者にとっては些細なことと思われるような出来事であっても、重大な症状を生じることがあります。なお、親しい人を失ったということに対して通常想定される範囲内の反応にとどまる死別反応は、想定を超えた反応を示す適応障害とは区別されます。
内因的な要素
社会生活を送るうえでストレスを完全に排除することは困難です。誰にでもストレスはあるものですが、些細なストレスで適応障害を発症する人もいれば、大きなストレスが生じても何ら変わることなく社会生活を送る人もいます。
これは、元来の性格や考え方によるストレスへの耐性や社会的サポート状況の違いなどが影響すると考えられます。
症状
ICD-10(世界保健機関の診断ガイドライン)では、適応障害の診断基準を、“ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態” と定義しています。
情緒面の症状とは、抑うつ気分や不安感、感情の高ぶり、集中力の低下などが挙げられます。また、これらの症状によって不眠やめまい、動悸などの身体症状が現れることもあります。
一方、行動面の症状としては、普段のその人らしからぬ発言や素行の障害(すぐに怒る、容易に感情的行動をとるなど情緒的安定さ)、摂食行動の異常、遅刻や無断欠勤など社会生活を営むうえで周囲にとっても障害になるような行為が現れることがあります。
しかし、これらのさまざまな症状は、ストレスがなくなると改善されるのが特徴です。通常、ストレスが消失してから6か月以上症状が続くことはないとされています。
検査・診断
適応障害の診断には、血液検査や画像検査による明確な基準はなく、症状の現れ方や時期、ストレスとの関係などを丁寧に問診していくことが必要となります。
なお、適応障害は脳腫瘍やてんかん、甲状腺疾患など脳の器質的疾患や身体疾患に起因する症状を除外した後に診断されるため、脳の病変をチェックするCT検査、MRI検査、脳波検査や採血検査などが行われることがあります。そして、診察や心理検査により既存のほかの精神疾患の診断基準をいずれも満たさないことを確認します(除外診断)。
そのうえで、日常的なストレスに遭遇後、本人に著しい精神的苦痛や社会的機能の障害が生じていれば、適応障害と診断されます。
治療
適応障害の治療でもっとも大切なことは、原因となるストレス状態の軽減です。
そのために環境調整としては、一時的に学校を休ませたり、休職をすすめたりする場合もあります。職場の配置転換後に発症した場合は、本人が希望する部署への異動をすすめるのが有効な場合もあります。
これと並行して、本人に対してはストレス対処能力を高めることが非常に大事です。このために、心理療法としては、認知行動療法やカウンセリングが行われます。不眠、不安、緊張感、抑うつ気分などの症状が顕著であれば、補助的に薬物療法で症状を抑えながら、本人と環境の間に生じている問題を徐々に整え、ストレスを受け入れる手助けをする治療が行われます。
また、社会的サポートの補強としては、家庭内での環境調整や周囲の協力を得ることが必要です。多くの適応障害ではストレスとなる要因がなくなると症状も改善します。しかし、ストレスを完全に排除することは困難なことが多く、ストレスとうまく付き合いながら、情緒面の症状には認知行動療法や対症的に薬物療法が行われます。
なお、一般的に薬物療法で用いられるのは、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などですが、あくまで補助的なものであり、心理療法に比べて効果のエビデンスが乏しいため、環境調整や本人への心理療法が優先されます。
引用元:medicalnote 適応障害
「適応障害」の場合、何か嫌なことやストレスを感じることがあると、遅刻や無断欠勤などを起こすケースがあります。
これは悪気があってそうしてしまうのではなく、判断力の低下、思考力の低下が同時に起きているため「休みたくないけれど、身体がしんどい」「休みの連絡を入れなければいけないが、身体が動かない」というような状況になっています。
会社から個人の連絡先に電話をしても、電話を出ることが出来ない・メールの返信が出来ないという状況になっていることが多いので、担当者が困ってしまうというケースもあります。
休んでいることに罪悪感があるので、今度は休んだことによってストレスを感じてしまって、人とのコミュニケーションを絶ってしまう。そのため、適応障害の人は離職、転職が多いという状況です。
※参考投稿記事:精神疾患は原因によって3分類できる!?
「適応障害」の従業員に対する対策方法とは?
「適応障害」の従業員に長く働いてもらうためには、ストレスをかけないことが重要です。
しかし、何がストレスになるかは個人によって異なるので難しい。
いくつか対策方法を紹介します。
※「ストレスをかけない」と言っても、そもそも仕事で「ストレス」が「0(ゼロ)」になることは有り得ないことです。ですので、こことで言う「ストレスをかけない」とは「(本人にとって)適正なストレスで仕事ができる状態」と受け止めて頂けたらと思います。
まず、本論に入る前に、職場で対応
(1)なんでも話せる人を作っておく
「適応障害」などの「精神障がい者」を雇用する場合、人事がメインに動いてしまうことがありますが、実際に業務をするうえで相談できる人を作っておくことが重要です。
指示を出す上司の他に、相談できる同僚や先輩を用意しましょう。
出来るだけ世代が、近い同性の従業員が理想です。ある程度業務に慣れるまでは従業員サイドからもフォローを入れられるようにすると働きやすい環境になります。
ここで忘れないで欲しいことは、場合によっては、当初愚痴を聞いてくれるだけで良かったけど、一緒に問題解決をして欲しい人になってしまうケースがあることです。本人側にしてみたら「一緒に問題解決に協力してくれない」=「味方ではない、理解をしくれない」となってしまい、本人は職場で孤立をする可能性が高くなります。
(2)メールでの連絡手段を認める
社会人の連絡は電話をするのが基本、という暗黙のルールがあります。
「適応障害」の場合、電話が出来ないという状況に陥ることがあります。
そのため、遅刻や欠勤の際には、人事のメールに連絡するなどの配慮をすることも大切です。適応障害の人も、わざと連絡しないわけではないのです。
連絡をしない自分を責めてしまうので、まずは電話でなくても連絡できるツールを用意してあげることで、連絡のハードルを下げることが出来ます。
(3)問題は早期解決を目指す
「適応障害」の場合、「これは嫌だな」と思うことが強いストレスになってしまって、遅刻や欠勤、頭痛やめまいなどの症状を引き起こします。
雇用してから少しの間は通常に出勤していたものの、だんだんと遅刻が増えてきた、欠勤が増えてきたというのは適応障害が悪化していると判断して、早期解決を目指すようにしましょう。
業務で何かトラブルがある場合もありますし、人間関係の可能性もあります。
適応障害の場合はストレス要因を取り除くことで通常に戻りますので、しっかりと確認していきましょう。
「生産性が低い」ことが一番の問題点!?
理想論を語れば『「適応障害」の従業員に対しては、ストレス要因になるものを除外するよう配慮をするようにして下さい』となるでしょうが、現実はそれで問題が解決できるものではありません。
会社側からすると、勤務時間内でやって欲しい最低限の「業務量」の目安があります。その目安を大きく下回る「生産性」は問題点として捉えています。また、当センターに寄せられる職場での1番の問題点は「生産性が低い」ことです。
1番の問題点としているのは、「生産性」が低いと言うことは、残業代が発生もしますが、場合によっては「社会保険料」も上がってしまう場合も有り得ます。結果して、当初、想定していた「人件費」を大きく上回る可能性があるからです。
ですので、会社側の対応の一つには「もたもたしないで早く仕事をこなして下さい」という発言にもなる訳です。このような叱責一つで進捗状況が改善できるのではあれば大した問題ではありませんが、それだけでは問題解決ができない場合もあります。
では、一つ一つ見ていきたいと思います。
①そもそも「業務内容が本人に向いていない」ことが理由で生産性が低い場合があります。この場合、職場での配慮がしやすいかもしれません。例として、対人関係が苦手な人に接客や営業の職務に就かせている場合です。色々な状況があるので一概に言えることではないかもしれませんが、配置転換等を労使双方合意の下で進めるべきかもしれません。
②「業務の仕方」について、対応障害の方から実際に相談を受けることがありますが、その中には「業務の進め方」が分からない、というものがあります。職場によっては「担当業務をしっかり教える体制」がないケースもあり、会社側の言い分としては「今までの従業員は、業務をこなしてくれていたのだから、今回も同様に対応しています」という訳です。
確かに、そのような事実があったとしても、新しく採用した従業員全員も同様に対応するというのは、職場としては早計過ぎると筆者が考えます。
人によっては、飲み込みの早い遅いもあり、得意とする仕事の仕方も異なるものです。
「1」を伝えて「10」出来るようになる人もいれば、「3」まで言って始めて「9」できるようになる場合もあります。
そのことを踏まえて、業務遂行をサポートができる体制をなかなか作れない場合は、当の本人が業務を遂行する際に「業務手順書」を同時作成するように指示をするのも一つの策かと思います。
会社側としては、作成されている「業務手順書」を確認することで、本人の作業手順を知ることにもなり、かつ、本人の仕事の仕方を知る一つのツールにもなります。
③「業務量」についても、「適応障害」を抱える方から相談を受ける際に上がる問題点です。
理想論を語れば「残業はもちろん、まずは1日ゆっくりしながらでもこなせる量の業務を与えるようにしましょう」となるでしょう。
ですが、本人が、業務・作業に慣れていないこと以外に、業務量をスムーズにこなせないケースがあります。
この辺り、職場と本人とで言い分が必ず異なり、「業務量がこなせない」ことが1番の問題点であるもあります。
職場側からすると、「従前の従業員は、この時間枠で、ここまでの業務量をこなしてくれていた。それに比べて、その半分しかこなせていないのはおかしい」という言い分です。
本人にすると「休憩時間や残業をしないとこなせない量を、言い渡されている」となります。これは本人側にすると比較対象がいない場合だと尚更です。
これら双方の言い分を両立させる方法は、
本人に業務遂行に時間がかかっている理由を確認すること。
この確認は、細かいですが各業務の各プロセス単位で行うことです。
つまり、各プロセス単位で問題解決することで、「業務量をこなせない本人の言い分」を会社側が協力して解決するのです。※この場合に参考になる考え方は「ISO9001」が参考になります。
この問題解決には、先に述べた「業務手順書」もそうですが、インフラ整備もあるかもしれません。
これを繰返すと、本人の仕事の仕方や適性が合っている、いないという論点にいきつきます(この中には、本人のやる気がない場合も含まされます)。
適応障害は悪化すると「うつ病」などに発展しやすい
「適応障害」と診断された人の多くが5年後には「うつ病」になっている、といわれる障害です。
「適応障害」への理解不足も精神疾患の発症理由の一つでしょうが、「生産性が低い」こと自体も本人のストレスにもなり発症理由になりかねません。
そのことを踏まえると、長期的な雇用を前提とした問題解決を模索することも必要でしょうが、場合によって配置転換や転職を勧めるケースもありだと思います。
一度、視野を広げて、会社にとって、本人にとって、何が1番なのかを見据えて問題解決に是非取り掛かって下さい。
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