【労災保険】「治癒」と判断されると、治療費の支払いはどうなるの?

目次

「労災保険」上の「治癒」とは?

一般的に「治癒」とは、病気や怪我が治った状態を言うと思われます。

病気が治ったは、怪我が治ったと言うのは「元の状態に戻った」という意味だとすると、「労災保険法」では「治癒」をそのように定義していません。

「元に戻っていないのに労災保険が打ち切られたっ!」と御相談をお受けすることがあります。

これはどういうことなんでしょうか?

実は、「労災保険」上の「治癒」とは、「労災保険の対象となっている傷病が、今後医学的な治療を行っても、医療的効果が期待できない状態」を言うのです。

 

「傷病の症状が、投薬、理学療法等の治療により一時的な回復がみられるに過ぎない場合」などのように傷病が治ったと言い難いような状態でも「治癒」判断される「労災保険」の保険給付は支給されないことになってしまいます。

 

ですので、足を労災事故で怪我をして、痛みがあるにも関わらず、「治癒」したと判断されると労災保険から保険給付が支給されません。何故なら、それ以上病院に通院しても改善される見込みがない為です。良くなる見込みがないのに通院しても、それはそもそも「治療」ではなく、気休めでしかない、と判断なのでしょう。

これは同時者にとってはとても残酷なことです。

医療機関で「治癒」判断されても・・・

御本人からすると、まだ身体に痛みが残っており、とても治った状態とは言い難い状態で「治癒」判断された案件を、当センターでお受けしたことがあります。

「治癒」判断をされると、治療代や薬代、仕事を休んだ賃金補償分も支給されないことになってしまいます。

この案件は、「治癒」判断をした病院とは別の病院で、「治癒」はしておらず「治療」の継続が必要であると判断して貰うことができ、その後1年間継続して「労災保険」から保険給付を受け続けることができました。※「治癒」後は、障害年金を受給。

この案件のように、別の病院へ行けば、「治癒」ではなく、治療の継続が必要と判断されるケースばかりではありませんが、胸のどこか置いておいて頂けたらと思います。

「治癒」判断された後は、どうなるの?

では、傷病の症状が残存している方に対して、「労災保険」は何もしてくれないのでしょうか?

「労災保険」の保険給付から支給されませんので、治療代は10割負担となってしまいます。※「健康保険」も利用できません。

ですが一定条件がありますが、「治癒後」にも利用できる制度が、「労災保険」には「アフターケア」があります。

※「アフターケア」とは、社会復帰促進等事業の一環として、被災した方の労働能力の維持を図り、円滑な社会生活への復帰を援助するものです。

具体的には、後遺障害に不随する疾病を発症させる恐れがある場合の予防やその他保健(健康を守り保つこと)を理由とする診察、保健指導、保健薬剤の支給など。

この「アフターケア」は、被災労働者からの申請により都道府県労働局長から「健康管理手帳」の交付を受け、労災病院、医療リハビリステーションセンター、総合せき損センターその他労災保険指定医療機関から無料で受けることができます。

「アフターケア」を受けれる対象者とは?

「アフターケア」を受けれる対象者を下記に記します。

<対象者1>対象傷病「せき髄損傷」の場合

せき髄損傷者であって、原則として障害等級第3級以上の障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者2>対象傷病「頭頚部外傷症候群」等の場合

頭頚部外傷症候群、頚肩腕障害、腰痛に罹患した人で、原則として障害等級9級以上に障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者3>対象傷病「尿路系障害」の場合

尿道狭窄の障害を残す人、又は尿路変向術を受けた人で、障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者4>対象傷病「慢性肝炎」の場合

ウイルス肝炎に罹患した人で、障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者5>対象傷病「白内障等の眼疾患」の場合

白内障、緑内障、網膜剥離、角膜疾患、眼瞼内反等の眼疾患の傷病者で、原則として障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者6>対象傷病「振動障害」の場合

振動障害の傷病者で、障害補償給付又は複数事業労働者障害給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者7>対象傷病「大腿骨頚部骨折及び股関節脱臼・脱臼骨折」の場合

大腿骨頚部骨折及び股関節脱臼・脱臼骨折の傷病者で、原則として障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者8>対象傷病「人工関節・人工骨頭置換」の場合

人工関節及び人工骨頭に置換した人で障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者8>対象傷病「慢性化膿性骨髄炎」の場合

骨折等により化膿性骨髄炎を併発し、引き続き慢性化膿性骨髄炎に移行した人であって、障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者9>対象傷病「虚血性心疾患」の場合

(1)虚血性心疾患に罹患し、原則として障害等級第9級以上の障害(補償)等給付を受けている人、又は受けていると見込まれる人

(2)ペースメーカ又は除細動器を植え込んだ人で、障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者10>対象傷病「尿路系腫瘍」の場合

尿路系腫瘍に罹患し、療養補償給付又は複数事業労働者療養給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者11>対象傷病「脳の器質性障害」の場合

外傷による脳の器質的損傷、一酸化炭素中毒(炭鉱災害によるものを除く)、減圧症、脳血管疾患、有機溶剤中毒(一酸化炭素中毒(炭鉱災害によるものを含む)を除く)に由来する脳の器質性損傷が残存した人で、原則として障害等級9級以上の障害(補償)等給付を受けている人、又は受けていると見込まれる人

<対象者12>対象傷病「外傷による末梢神経損傷」の場合

外傷により末梢神経を損傷し、症状固定後においても末梢神経の損傷に起因するRSD(反射後交感神経ジストロフィー)及びカウザルギーによる激しい疼痛が残存する人で、障害等級第12級以上の障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者13>対象傷病「熱傷(やけど)」の場合

熱傷(やけど)の傷病者で、原則として障害等級第12級以上の障害(補償)等給付を受けている人、又は受ける見込みがある人

<対象者14>対象傷病「サリン中毒」の場合

サリン中毒によって療養(補償)等給付を受けていた人で、症状固定後においても縮瞳、視覚障害、末しょう神経障害、筋障害、虫垂神経障害、心的外傷後ストレス障害等が残存する人

<対象者15>対象傷病「精神障害」の場合

業務による心理的負荷(通勤災害に伴う心理的負荷を含む)を原因とした精神障害のよる療養(補償)等給付を受けていた人で、症状固定後においても、気分の障害、意欲の障害、慢性化した幻覚性の障害又は慢性化した妄想性の障害、記憶の障害又は知的能力の障害が残存する人

<対象者16>対象傷病「循環器障害」の場合

(1)心臓弁を損傷した人、心膜の病変の障害を残す人又は人工弁に置換した人で、障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

(2)人工血管に置換した人

<対象者17>対象傷病「呼吸機能障害」の場合

呼吸機能障害を残す人で、障害(補償)等給付を受けている人、又は

受けると見込まれる人

<対象者18>対象傷病「消化器障害」の場合

消化器を損傷した人で、消化吸収障害等を残す人、又は紹介ストマを造設した人で、障害(補償)等給付を受けている人、又は受けると見込まれる人

<対象者19>対象傷病「炭鉱災害による一酸化炭素中毒」の場合

炭鉱災害による一酸化炭素中毒で療養補償給付又は複数事業労働者療養給付を受けていた人

再発した場合はどうなるの?

一度「治癒」判断された後に、同一傷病が発症した場合はどうなるのでしょうか?

下記を全て満たす場合は「再発」として再び療養(補償)等給付を受けることができます。

(1)その症状の悪化が、当初の業務又は通勤による傷病と闘争因果関係があると認められること。

(2)症状固定の時の状態からみて、明らかに症状が悪化していること。

(3)療養を行えば、その症状の改善が期待できると医学的に認められること。

ま と め

労災保険法上の「治癒」判断がされた場合、健康保険も利用ができない為、医療費は「10割」負担となります。

但し、一定条件を満たしていれば労災保険の「アフターケア」を受けることができます。

また、一定条件を満たしていない場合であったとしても、ケースによっては健康保険を利用できる場合も有り得ますので、そのようなケースが発生した場合は、専門家や役所の担当窓口に速やかに相談をすることをお勧め致します。

 

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