兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり(「孫子の兵法」計篇より)

通解

戦争は、国家の大事である。兵(民・住民)の生き死に地であり、国の存亡の選択肢なのだから、このことを深く知っていくべきである。

解説

当然至極に思える言葉なので、「うんうん。解る解る。」と読み過ごすことが多いのではないでしょうか。

ですが、一度立ち止まって考えてみると、これからスタートする『孫子の兵法』は、この一文の意味を十分理解していないと、実践できないことを思い知ることになります。

では早速見て行きたいと思う。

ここでは、この言葉の逆を想定してみたい。きっとその方が解り易いはずです。

とは言え、逆のことを考えてみて下さい、と言われて簡単に想像できないでしょうから、歴史の事実に基づいて考察をしたいと思います。



「真逆のこと」から検証してみる

真逆の例として、世界初の「世界国家」である『アッシリア』を見ていきたいと思う。

※アッシリアの詳しい内容は、こちらをご覧ください。



私が愛読している『歴史の研究 トインビー著』から、次の一文を紹介したいと思います。

『一見したところでは、アッシリアの滅亡は理解しがたいように思われる。なぜなら、アッシリアの帝国主義者たちは決して、マケドニア人や、ローマ人やマムルーク族のように、“漕ぐ手”を休めなかったからである、(中略)アッシリアの戦争機構は、滅亡の日に至るまで、点検され、修復され、補強された。』(歴史歴史の研究 トインビー著)



常に改善されている組織。皆さんはどう思われたでしょうか?

人によっては、この文章を読んで確かに「理解しがたい」と思って致し方ないと思います。歴史に少し詳しい方であれば、「世界国家」になってあまりにも短期間のうちの滅亡してしまったことに疑問を抱いたかもしれません。



ですが、このように改善を繰り返していく晴れやかな「戦争機構」の影には、「政治的不安定、経済的破綻、文化の衰微、一般的な人口減少」があった、と解かれば納得されるでしょう。



「軍国主義」を国家方針としたときから、「政治的不安定、経済的破綻、文化の衰微」「人口減少」は、コインの裏と表の関係のようについて回るものかもしれません。では「軍国主義」の方針下で、「政治的、経済的成長発展」「文化興隆」「人口増加」が有り得るのか考察してみたい。

考 察

1,「政治的安定、経済発展、文化交流、人口増加」があったら?

少し一呼吸してから「政治的安定、経済発展、文化交流、人口増加」という現象をイメージしてみて下さい。

つまり「政治力」「経済力」が、他国に勝っているのであれば、「政治力」「経済力」で他国より有利な立場に立つ方が損害も少なく、国に利益をもたらすことは容易に想像できると思います。



2,戦争をすることは?

1)「戦争」は、間違えなく人命やお金等の消耗戦でしかない。



2)「政治力」「経済力」が弱い国が採用した「軍国主義」下では、「政治力」「経済力」がある人材は育ちづらい。

①そもそも「教育する側」の人材がいない。

②「武力」優先の国家方針の為、「政治力」「経済力」を身につけようとする人材が少なくなる。

その結果、国家は、その後も「政治力」「経済力」が成長しない、又は衰退傾向となる。



3)「武力」は、あくまでも「政治力」「経済力」等の国家の総合力の上に成り立つもの。

よって、「軍国主義」一辺倒となった段階で、(「戦争」は消耗戦でしかない為)何かが不足事態に陥りやすく、不足分を補う為に、(「政治力」「経済力」が弱いので、これらでは補うことができないので)誰かに、又は何かで強制的に負担を強いることになる。

アッシリアの場合は、それが属国ということなのでしょう。事実として、反乱が絶えなかったので、国家体制も反乱が小規模になるように、抑えやすいことを想定して組み立てられていた。



考 察 結 果

考察内容を踏まえると、目先のことは良いが、将来的には戦争一辺倒、軍国主義一辺倒では、国家の存立自立が危ぶまれる状態となる。

まとめ

1,「戦争」事体は、最終手段

「武力」は、あくまでも「政治力」「経済力」等の国家の総合力の上に成り立つもの。

つまり、戦争に訴える前に、国家の総合力を高めるべきであり、戦争は最後の手段とすべきだと思う。

との理由としては、「武力」の訴える場合、人命も当然ですが、折角築いた「政治力」「経済力」の低下も引き起こす可能性が大だからです。



2,「人材育成」、及び「人材獲得」に他国に遅れをとる

「人材育成」の遅れについては、大意は先程述べましたので、ここでは省略をします。

「人材獲得」についても、「人材育成」から想像できると思いますが、自分を評価してくれることがなければ、自国から他国への人材流失の可能性を多分に含むことになります。その結果、他国へ有能な人材が集まることになります。



このことは、『五事七計』の一つである『将』で、他国に遅れることを意味している。



多岐にわたる人材、多様な価値観の共存こそが組織を強くすると思う筆者にしてみると、通り一辺倒な人材しかいないのは創業期だけにしたいところです。



更に言えば、読者の皆さんに思い出して欲しいのは、「ビジョナリーカンパニー飛躍の法則」の第一番目が、経営者のレベルの話だったことです。

つまり、「第四水準の経営者」は、自分の為の組織を作った。

そして、「第五水準の経営者」は、現在そして将来の為の組織を作った。

経営者は企業・会社全体を見ますが、軍隊における「法」については、「将」が携わります。この「将」を「第四水準の経営者」及び「第五水準の経営者」と置き換えると、『五時七計』の『法』においても遅れるを取ることを意味する。



3,今回は「内側」、次は「外側」へ

今回は「内側」、そして次は「外側」にというように、「振り子の法則」は自然の摂理と言えます。

「内側」の問題を放置したまま、「外側」に活動することは、本来組織として変革する必要があるのに変革しないことは「自殺」行為と言っても過言ではありません。

会社経営も同様に、一つの分野に力を注ぐということも時には必要であったとしても、全体としてはバランスが要求されるのではないでしょうか。

攻めと守り。私はどちらかと言うと攻め一辺倒になりがちなので、このバランス感覚を意識しながら、激変する世の中に打って出て行きたいと思います。



4,多くの会社は「経済的な成長・発展」は考慮することができますが、「政治的成長」は考慮できていない。

どのような会社や人に影響力を持とうとしているのか?

これからはこの視点を見失うと、急速に力を失う可能性があることを忘れないで欲しい。



戦争は最終手段となるように、①有能な人材を集め、②政治力・経済力で他国よりも有利な立場に立ち、③文化興隆に勤めていくべきである。最終手段の戦争となったとしても、勝てる態勢を作っていく。これを「察せざる可からざるなり」。深く知っていくべきである。

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